あの頃の嘉人

過去インタビューを振り返りながら、プロサッカー選手「大久保嘉人」の軌跡をたどる。(協力:週刊サッカーダイジェスト)

週刊サッカーダイジェスト(2004年9月14日号)

まさかの早期敗退に終わったアテネオリンピック。
世界を感じたストライカーは、いま何を思うのか?アテネのこと、A代表、そして海外への想い…(前編)

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大久保嘉人の夏は、あまりにも早く終焉を迎えた。しかし、グループリーグ敗退という結果とは反して自身は世界の大舞台で、強烈な輝きを放っていた。果たしてオリンピックの経験は何をもたらしたのか。帰国直後の大久保に、いまの心境を訊いた。

前編

「自信がついたし、いい大会になった。負けたっていう悔しさよりも、やれたっていう満足感のほうが大きい」

狂ったペースを取り戻せず前半は浮き足立っていた

大久保嘉人は泣いた。溢れ出す感情を押さえることができず、がっくりと脱力し、人目をはばからず大粒の涙を流しつづけた。己のすべてを賭けて臨んだアテネオリンピック。自身初の世界大会で、大久保は3試合を通じて強烈な輝きを放っていた。世界の屈強なDF陣を相手にしても決して臆することなく、前へ前へとゴールに向かっていく。3試合2得点という成績もさることながら、気持ちを前面に押し出し、日本の攻撃陣を牽引しつづけたその姿は、賞賛に値するものだ。

しかし、自身の調子が良かったからこそ、それに伴わない結果にやりきれない思いが募る。決して適わない相手ではない。自分のプレーは十分に通じる。にも関わらず得られなかった結果。その焦燥感と寂寥感が、大久保の心の奥底を痛々しくも刺激する。そして涙は止まらなかった……。

帰国直後の大久保は、つい2週間ほど前の悲しみを、すでに忘れていたかのようだった。肉体的疲労が抜けきっていないのか、気だるそうな振る舞いではあったものの、言葉の端々から感じられる強い意志は、すでに未来へと向けられたものだった。

2004年、8月。予想以上に早く終焉を迎えた大久保の夏は、しかし揺るぎない自信をもたらしてくれた。

—帰国後しばらくオフだったようですが、何をしていましたか?

「帰ってきてすぐリカバリーやって、そのあとは実家に帰ったりして、まったりしてました」

—すでにチームには合流したわけですが、現在のコンディションはいかがでしょうか。

「まだ体力が戻ってないんですよ。帰ってきてフィジカルもやってないし、身体はきついですね」

—チームにすんなりと入っていけました?監督が代わり、だいぶ雰囲気も変わってきたと思いますが。

「けっこういいチームになってきたと思いますよ。セレッソ、強くなったでしょ。まあ、(開幕戦で勝利した)FC東京は主力が5人くらいいなかったけど(笑)。監督が代わって、チームも変わってきたと思うけど、正直まだわかんないっす。まだ3日目ですから。試合やってみないとね」

—さてアテネオリンピックが終わり、しばらく時間がたちましたが、改めて大会を振り返ってみると?

「自分としては良かったですよ。自信になりましたね。負けたけど、自分のプレーは全然やれましたからね」

—それぞれの試合の感想を聞かせてください。初戦のパラグアイ戦は?

「やっぱ、早い時間に点を取られたのが痛かった。オリンピックっていう大きな大会で、しかも初めての世界大会だったし、とくに前半は浮足だってましたしね。あそこでペースが狂ってしまって、結局最後まで自分たちのペースに持っていけずに、そのままズルズル行っちゃった感じです。自分としては前半は身体が重かった。後半はいい感じになってたんですけどね」

—調子が出てきた後半に、見事なゴールを決めましたね。

「たまたまっすよ(笑)。トラップした時にディフェンスが2枚来てたから、シュート打っとけって思って、早めにトゥキックで蹴ったら、うまくディフェンスの股を通った。決まった瞬間は、まだ負けてたけど、やっぱうれしかったですね」

—しかし一歩及ばず黒星スタートとなってしまいました。試合後の心境はどういったものだったのでしょう。

「別に落ちてはなかったですよ。まだ次もあるし。自分だけじゃなくて、チーム全体の気持ちもイタリア戦に向いていたと思います」

—大会を通してキレていた大久保選手ですが、なかでも2試合目のイタリア戦が、最高のパフォーマンスだったのではないでしょうか。

「そうですね、イタリアっていう強いところと早くやりたいって思ってたし、活き活きとプレーできたと思います。自分のプレーがどれくらい通じるのかなっていうのを、確かめながらやってたとこともあります。実際に思ってたよりもやれましたしね。自分でもビックリしちゃうくらい」

—A代表でもあるDFフェラーリをぶち抜いたシーンは、かなりインパクトがありました。

「あのとき、走りながら手を握られたんで、それをふり払おうとしたら、顔面に入っちゃった(笑)。イタリアはディフェンスが強いチームっていうイメージだったけど、それは感じなかったですね。プレスもあんまりきつくなかったし」

—この試合も先に点を取られてしまいました。

「先に2点ポンポンってとられちゃったからシンドかったけど、2点ならなんとかなるって思ってましたね。後半はペースもつかめたし」

—ただ、1戦目も2戦目も、同じような展開になってしまいました。

「いやな雰囲気になりましたね。やっぱり最初の大事な時間帯で、集中力が欠けていたと思います」

—結局1点差で敗れ、グループリーグ敗退が決まってしまいました。

「あ〜、終わっちゃったなって感じでした。悔しかったですけど、負けたってことよりも、このチームでやれるのが次の試合で終わりになっちゃうんだなって思ったら、すごく悲しかった。長かったけど、あっという間だったなって。それで泣けてきた」

後編に続く


前編

取材・文:原山裕平(本誌編集部)

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