あの頃の嘉人

過去インタビューを振り返りながら、プロサッカー選手「大久保嘉人」の軌跡をたどる。(協力:週刊サッカーダイジェスト)

週刊サッカーダイジェスト(2004年6月15日号)

アテネへの飛翔
「落ちたときはやっぱり辛かった。だけどあそこで腐らずやってきてホントに良かったと思う」(後編)

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いよいよアテネオリンピック開幕まで3か月をきった。そこで今週より、U-23日本代表チームのキーマンに登場を願い、アテネに向けた想いを語る連載がスタートする。その第1回に大久保嘉人が登場。日本の若きエースが、苦悩に満ちたあの日々を振り返る。

後編

3トップはスムーズにできる。相手にとっても怖いはず

-チームに合流したときの印象は?いままで自分が知っていたチームとだいぶ変わっていたのでは?

「けっこう変わってましたよ。だから、最初は輪に入りづらかった。もう、新入生みたいな感じで、ヨソヨソしている自分にものすごい腹が立った。元々いたチームなのになんで?みたいな。でも、みんな体調が悪かったんで、オレらはフレッシュだったから、やらなくちゃいけないなっていうのはありましたね。一緒に入った阿部さんとは、オレたちふたりで点取るか、みたいなことを言ってたんですよ。そしたらそのとおりになった(笑)」

-招集されても試合にでられないのでは、という不安はなかった?

「いや、呼ばれたからには絶対に出られるだろうと思っていた。でも、初戦は出られなかったんでね。あの試合は出たかったな。みんな疲れてたから、フレッシュな選手を使ってくれって思ってたんで、そうとう悔しかったですね」

-しかし2戦目のレバノン戦から出場し、見事な決勝ゴールを決めました。

「もう、見たかーって感じですよ。とにかく結果を出したかったから。タイミングも良かったね。あそこで点取れなかったら、やられてたかもしれない。同点に追いつかれて、流れがアッチに行きかけてたんでね。でも、オレの中ではまだまだだったね。1点とって勝ったけど、ここで終わりじゃないわけだから、次も点を取らなくちゃいけないってずっと思ってました。点を取らないと、叩かれるのはオレだし」

-そういった重圧を跳ねのけて、UAE戦でも2ゴールの活躍。そしてオリンピック出場を決めました。

「1点目のときはホッとしたね。もちろん、2点目もうれしかったし。終わった瞬間は、とにかく嬉しいのひと言。でもバーレーンの結果はまだ知らなかったんですよ。試合中、それはずっと頭の中にあったんですけど、ホイッスルが鳴った瞬間に忘れちゃって、ワーッて喜んでたら、みんながベンチに向かって行ってたから、えっ、なんで?みたいな。それでようやく思い出した(笑)。まさか逆転されるわけないとは思ってたけどね。」

-うれしい気持ちはあるけど、逆にUAEに行けなかったことで、チームに迷惑をかけたという気持ちはある?

「申し訳ないという気持ちはないけど、やっぱり、悔しい気持ちは残ってましたよ」

-もし行ってたら、もっと楽に予選を突破できたかもしれない。

「そうかもしれないけど、それは分からない。逆に行かなくて良かったというのもある。行ってたら、もしかして体調を崩して日本ラウンドで活躍できなかったかもしれない。結果的に日本で体調を整えていたから、ああやって点が取れたんだと思う」

-UAEで戦ったメンバーの体調は、そうとう酷かったらしいけど。

「相太とか吐いてましたね。誰だ、ここに吐いたの?って言ったら相太が申し訳なさそうな顔してた(笑)。点滴がいっぱい用意されてたし、びっくりしましたね」

-そういった環境には強いの?

「強いっすよ。全然問題ない。何食っても平気だし(笑)。これまで海外行っても体調崩したことは1度もない。逆に海外行ったら、俺だけ太る。だからアウェー向きかも(笑)」

-改めて、落選から最終予選までの期間を振り返ると?いちサッカー選手としては非常に劇的な時間を過ごしたわけだけど。

「やっぱり、辛かった。落ちたときはやばかったね。だけど、あそこで腐らずやれてホントによかったなと。走り込みとか、徹底的に身体をいじめてやってきたおかげで、いい結果を残せたんでね」

-それは精神的に強くないとできないと思う。心の支えになったのは何だろう?

「何だろうね・・・。親とかはけっこう気にしてくれたみたいだし。まあ、いろいろ支えてくれたひとはいましたね。あと一度小嶺先生から電話がかかってきて、あんまり気にするなよと。お前はA代表にも選ばれてるし、できる子だから、がんばれ。次は絶対選ばれるから心配するなって」

-自分のなかでモチベーションになったものというと?

「そういうのは、あまりなかったね。しいて言えばとにかくムカついてたんで、周りを黙らせてやろうって思った。その気持ちだけでやって来たところはある」

-さて、本大会に向けた話も聞かせてください。UAE戦でやった3トップがこれからも採用されていきそうだけど、当の本人はこの3トップをどう感じている?

「相太が真ん中で、その後ろにオレと達也というカタチなんだけど、相太が落としたボールをふたりで狙うというのが基本。それで達也が飛び出したら、オレが少し下がってパサーみたいな感じになって。オレはけっこうパス出すのも好きだから。ホント、自由にやってますね。3人の連携も問題ないから、2トップのときよりもすごいスムーズにできてると思う。相手にしてみれば、怖いと思いますよ」

-高校の後輩である平山選手とは、良い関係を保てている?

「まあ、普通ですよ。ヨシトさん、ヨシトさんって来ると、何だよって上向くのが大変。デカいから(笑)。それにアイツは慣れてくると、態度もデカくなる(笑)」

-同タイプの田中選手とは何かと比較されるけど、ライバル心はある?

「そういうのはないっすよ。達也だけじゃなくて、誰にもそういった意識はない。他のひとは関係ない。やっぱり自分ですから」

-その田中選手は、2トップでも3トップでも動きはあまり変わらないと言っていたけど。

「オレの場合は違う。2トップだと後ろ向きでボールを受けることが多いけど、3トップなら下がって前を向いてボールを持てるんでね。さっきも言ったけど、パスを出すのも好きなんで、自分としてはすごくやりやすいですよ」

-逆にトップ下がいないってことは、スペースに走ってもパスが出てこない。そういうジレンマはない?

「う〜ん、でもパスが出てこなければ、下がってもらって、自分で打開していくこともできるからね」

-裏に抜ける動きと、パサーとしての役回り。加えてあのカタチだと、ウイング的な役割も求められるのでは?

「UAE戦のときはサイドを崩せって言われてたから、斜めに走ってサイドでボールもらって、タテにつっかけて行くっていうことはやろうとしていた。だからチームとして、そういう狙いはある」

-ギリシャ遠征では、そういった動きの精度を高めるといった目的があったと思うけど。

「ギリシャ遠征はあまり参考にならなかったね。疲れもあって動けなかったし、チームもかなり調子悪かったから。得たものといえば、向こうの環境と本番のピッチでやれたっていうことくらい。芝はそうとうひどかったね。ボールが走らないし、走りづらいし。でも慣れれば大丈夫だと思うんで、それを確認できただけでも良かったかな」

-今回の2試合(トルコ選抜、U-23マリ代表戦)は、どういった目的を持って臨むのだろうか。

「いままでどおりでいいと思ってる。とくに何かを変える必要はない。結果だけ残して、自信をつけていければいいかなと」

-本大会への意気込みを聞きたいんだけど・・・。

「なにもないですよ。ていうか、まだ実感わかってないっていうか、なにも考えてないというか・・・。また、大会が近くなって気持ちが高まってきたら、そのときに話しますよ」

-では、大会に向けていま意識的に取り組んでいることは?

「それも、とくにないなぁ・・・」

-そういえば、身体が大きくなった気がするけど。

「デカくなったんですよ。体重もそうとう増えた。もう、70キロくらいあるかもしれない。筋トレしまくりですから。代表落ちしてからずっとやってるんでね。スピードが落ちるかなっていう心配もあったけど、うまく鍛えれば問題ない。とにかく鍛えまくって、相手をぶっとばしてやりますよ(笑)」


後編

取材・文:原山裕平(本誌編集部)

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